工業用厚物ミシンの糸調子について解説します

  • 2020年11月14日
  • 2024年1月31日
  • ミシン

厚物ミシンの調整とメンテナンス  糸調子編

厚物ミシンを使い始めたけど糸調子はどうすれば良いのだろう?

私Goziが日常で行っている工業用厚物ミシンの糸調子の調節方法を解説します。



縫製の基本となる糸調子の調整方法

調整の手順

糸調子は以下の順番で調節します。

1.下糸で張力を決める。(糸調子全体のベースとなる張力)ほぼ固定

2.上糸で糸調子をとる。(下糸とのバランス)柔軟に

はじめに
工業用や職業用の厚物ミシンは、帆布や革など厚手の素材をしっかり縫い合わせるために太い針と糸を使うため、薄地を縫う普通縫いミシンよりはるかに強い張力をかけられます。(かけます)

薄い生地を縫えば糸の張力で生地に波打つようなシワ(パッカリング)ができるぐらいです。

では、どのぐらいの強さで調整するのでしょうか?

実際に帆布やデニムの厚物生地を2枚縫い合わせて左右に引っ張って見ましょう。
隙間が空くような糸調子では弱すぎです。

1.まず基本となる下糸の張力(テンション)を決める

下糸の張力はボビンケースの糸調子バネによって行います。
糸調子の最も基本となる最初の設定で、どれだけの強さで糸を締め上げるかを下糸で決めます。


そして、
下糸の糸調子は一度決めるとまず触ることはありません。


下糸の調節は、釜の糸を指で摘み持ち上げ、揺らしたときに糸が出る(ボビンケースが下がる)程度の強さにするのが一般的な方法ですが、釜の大きさ、その時の糸の量(重量)や太さでも結果が変わってくるのでおおよその目安にはなります。


ですが、
厚物を縫うにはこのやり方での張力では弱いと思います。

私Goziの本縫い用ミシンの調節方法は糸調子バネをいっぱいに締め上げ、そこから1/3程度戻し、その位置を基準にしています。
(※ 但し、張力が強いと糸の太さ、糸の種類により引き切れることもあります。その場合は少し緩めて様子を見ます。
素材によっては張力が強すぎる場合もあります。
当工房の仮縫い用のミシンでは、30番のスパン糸(短繊維)を使うため、張力による糸の切れや、縫製した生地が縮まないように、緩めでセットしています。)


GOZI帆布でのミシンセットの基本は?
縫う生地:帆布 主にパラフィン防水加工9号帆布
        シルケット加工11号帆布
針:#19 #21
糸:クラレのビニモ フィラメント糸(長繊維) #20 #8

2.次に上糸で下糸との張力のバランスをとります

上糸の調整ダイヤルで、下糸の張力に合わせ糸調子を合わせます。

普通はこれで合えば糸調子は完了と思いがちですが…

下糸の調節は、一度決めれば問題がない限り、まずさわることはありませんが、上糸のダイヤルは状況に合わせて頻繁に調整します

それは
その時の状況で糸調子が変わるから。

意図的に糸調子を変えることがあるからです。

◉ 状況により調整するとき

下糸、ボビンの糸の量によって(レバー比の違いによって)

多いとき:糸を巻いたばかりの直径が大きいときには抵抗が少ない。(下糸の張力が弱い)
→上糸の調節ダイヤルは緩める(反時計回り)

少ないとき:巻いた糸の直径が小さくなり抵抗が大きくなる。(下糸の量が減るにつれ、張力が強くなる。糸が無くなる手前では特に)
→上糸の調節ダイヤルを締める(時計回り)

   ↑

※ 糸の量で直径の差がより大きくなる2倍釜は、普通釜と比べ多く巻ける分、この張力の変化が大きくなります。


上糸の量によって(糸の脱落防止用ネット付きの糸の場合)
糸の新品の量が多いときにはネットが強く締めるため、上糸が引き気味になります。

糸の量が減るとネットが緩むため、影響されません。

ただ、このネットに切れや破れが有る場合、糸がそこに引っかかると一瞬上糸のテンションが上がり糸調子が不安定になります

対策として程度の良いネットは取っておき、切れがあるものは良品と交換しましょう。

その他の糸調子が不安定になるときには

縫っていて部分的に糸調子が悪い部分があるときには以下を点検します。

ミシンに原因がある場合

糸の通り道のキズ→できるだけ目の細かいヤスリでキズを取ります。

糸調子皿にサビがある場合→ペースト状の錆落としで落とすか新品に交換します。

針の先端が潰れていたりバリや返しになっているとき→針を交換します。

釜本体や、剣先にキズがあるとき→できるだけ目の細かいヤスリでキズを消します。


設定に原因がある場合

厚さの違いでの段差部分やカーブでの糸調子が悪いとき→多少であれば糸調子ダイヤルで調整をするか、針の号数を変えて様子をみます。


又、糸が通り道の途中で引っかかている場合もあります。


糸調子が不安定な場合はすぐに点検。
解決しない問題はミシン屋さんに。


気温や湿度によって
室温、湿度により糸の抵抗が少し変わります。



◉ 意図的に調整するとき

縫製がキレイに見えるように糸調子はいつも意識して意図的に調整します。

では、どんなときに調節するのか?
それは以下の3点です。

製品の表も裏も見えるところの糸調子は中央に。

表しか見えないときには下糸を引き気味で。

裏側を主に見せるものは上糸を引き気味に。

本作を縫う前に試し縫いを

製品を縫い始める前に試し縫いをします。

できればその製品と同じ素材のもので、重ねる枚数も同じにして調節をします。

上糸調整ダイヤルの回し方

上糸を調整するときには少しづつ回していては変化が分かりづらいので、起点を上下若しくは左右と決めておき、半周から一周で区切って大きく回します。

半周回して足りなければもう半周。

若しくは一周回して糸が引き気味(または緩み気味)の場合は半周戻すというやり方です。

◉ Goziはダイアルを回すとき、その都度ノッチのカチカチする音が気になるので、使っているミシンは全てダイヤル裏のプレートをひっくり返してノッチ音が出ないようにしています。

上糸調整ダイヤルを外すとデコボコの放射状のプレートがあります。

このプレートをひっくり返し、ツルツルの面にします。

ダイヤルを組み付けます。

ダイヤルがスルスル回ります


サブテンションダイヤルについて

ミシンによっては糸の撚り戻りを防止するためにサブテンションがついています。


特にヨレが出やすい太い糸を使う縫製には有効です。

サブテンションが付いていない職業用厚物ミシンでも、
太い糸を使ったときなど、糸がヨレる、糸調子が安定しないときにはサブテンションに変えてみると改善される場合があります。
(サブテンションはミシン店またはネットなどで販売されています)

サブテンションの調整は?

サブテンションは上糸にテンションをかけるというよりは、糸の撚りを安定させる為のものなので、とりあえず試し縫いをしてみて糸がヨレなければ特に調整は必要ないです。

糸がヨレることがあれば締めて様子を見ます。

糸の通し方で

もう一つ、太い糸のヨレ対策は、サブテンションから糸調子皿(糸調子ダイヤル)までの糸を、途中の糸案内に掛ける方法です。

○ Goziが糸案内に掛けずに使っていた頃、ビニモの20番は問題が無かったのですが、太い8番を使うとヨレるときがあり、糸調子皿から外れることがありました。

糸案内に通すようにしてからは糸ヨレの問題は無くなりました。
(JUKI DSU-144N)


糸案内を通すことで糸ヨレは解消できました。


糸のテンションと縫い目ピッチ

針目のピッチは同じダイヤル位置でも、糸の張力を強めると縮まり、緩めると伸びます。
(ここでの張力は下糸から調整した全体の張力です)


僅かなことですが少しの違いがありますので参考に。


糸調子まとめ

● 下糸で全体の張力を決める。一度決めるとほぼ固定

● 上糸の張力は状況に応じてフレキシブルに

● 調整ダイヤルを回すときには半周180°を基準に

● 糸調子が安定しない場合やヨレがあるときはサブテンションや糸の通し方を見直す

● 糸調子が安定しない原因が糸の通り道や、針にあることがあるので点検する

● 製品を縫う前にはハギレを使って糸調子の点検行う

以上はGoziが行ってきた、そして、日頃行っている糸調子の調整方法です。

厚物ミシンを使い始めた方の他、
普段、ミシンを使っている方でも参考になることがあればなによりです。

※ 使う針や糸の種類、太さ、ミシンのクセでうまく調整できないこともあります。
調整しても糸調子が安定しないなど、改善しないトラブルはミシン店に相談しましょう。



最後まで読んで頂きありがとうございます。

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